モ占いサイコロで仏の答えを聞く
文殊菩薩の真言の6つの音節を刻んだサイコロを振り、出た組み合わせで答えを読むチベットの占い。僧侶が人々の相談に応じて行ってきました。
発祥:チベット古くから(19世紀に手引書が著される)儀礼解説のみ
概要
チベット語の「モ(mo)」は、占いや占いの答えを意味する言葉です。チベットの人々は、病気の治療、仕事、旅立ちなど大事なことを決めるとき、信頼する僧侶(ラマ)にモを頼んできました。モはチベット仏教の信仰の中で行われる実践の一つで、今もチベットの人々の暮らしに生きています。
モにはいくつもの方法があります。よく知られているのは、サイコロを使う方法と、数珠(じゅず)を使う方法です。このページでは、19世紀の高僧ミパム・リンポチェがまとめたサイコロのモを中心に紹介します。
由来と歴史
チベットには、仏教が伝わる前から、さまざまな占いの習慣がありました。モは、そうした古い習慣と仏教の教えが結びついて形づくられたと考えられています。チベットでは、占いの答えは神仏の知恵によって示されるものと受け止められてきました。
サイコロのモの手引書として有名なのが、ジャムゴン・ミパム(1846〜1912年)の書いたものです。ミパムはニンマ派の大学者で、宗派の違いをこえて学び合う「リメ運動」にも加わった人物です。手引書は、仏陀が説いたとされるタントラ(密教の経典)にもとづいて編まれたと説明されています。この手引書は英語にも訳され、“Mo: Tibetan Divination System” として出版されました。
仕組み・やり方
文殊菩薩の6つの音節
ミパムの方法では、6つの面に文字を刻んだサイコロを使います。文字は、知恵の仏である文殊菩薩(もんじゅぼさつ)の真言「オーム・ア・ラ・パ・ツァ・ナ・ディ」のうち、「ア・ラ・パ・ツァ・ナ・ディ」の6つの音節です。真言とは、仏や菩薩の力がこもるとされる短い言葉のことです。
手順
占う人は、まず文殊菩薩を心に思いうかべて短い瞑想をし、真言をくり返し唱えます。それから質問に心を集中させ、サイコロを2回振ります。6つの音節が2回分で、組み合わせは6×6の36通りになります。
手引書には、36通りそれぞれに答えが書かれています。全体の吉凶のほか、家庭、財産、病気、旅、探し物など、さまざまな事柄についての短い指針が示されていると紹介されています。ただし、答えはそのまま当てはめるのではなく、質問の内容に合わせて読み解く必要があるとされます。そのため、他人のために占う場合は、師から方法を正しく伝授されることが大切だといわれます。
ほかのモ
数珠を使うモでは、数珠を手に取って祈ったあと、適当な場所で数珠を分けます。そこから玉を一定の数ずつ数えていき、最後に残った玉の数で答えを読みます。ターラー菩薩などの信仰と結びついて伝わってきた方法もあります。
文化の中での位置づけ・現代
チベットの人々にとって、モは単なる「運だめし」ではありません。答えの中には、お経を読む、供養をする、善い行いを積むといった、心を整えるための勧めが含まれることもあります。決断に迷ったときに、仏教の教えに照らして進む道を考えるための方法といえます。
ダライ・ラマ14世も、重要な判断のときにモを行うことが知られています。1995年にパンチェン・ラマの生まれ変わりを認定した際には、サイコロのモや、名前を入れた練り粉の玉を使うモを行ったと、自ら声明の中で述べています。インドやネパールなどに暮らすチベットの人々の間でも、モは今も行われています。
よくある誤解・豆知識
モは、未来を言い当てて人を驚かせるための占いではありません。信仰の中で、迷いをほどき、次の一歩を決めるための実践として大切にされてきました。そのため、このサイトでは紹介にとどめ、体験の形にはしていません。
また、偶然に出た結果を神仏の答えとして受け止める点は、台湾の廟で行われる擲筊(ポエ)などとも共通しています。
参考文献
- Jamgön Mipham, “Mo: Tibetan Divination System”, translated and edited by Jay Goldberg (Snow Lion Publications, 1990)
- Jan-Ulrich Sobisch, “Divining with Achi and Tārā: Comparative Remarks on Tibetan Dice and Mala Divination” (Brill, 2019)
- Central Tibetan Administration「Discovering the New Panchen Lama」(1995年5月14日) https://tibet.net/?p=4563
最終更新:2026-10-08