世界じょうしき図鑑

メソポタミアの夢占い粘土板に残る夢の手引き

夢を神々からのしるしと考え、「もし人が夢の中で〜したら」という形で意味を書き残した古代メソポタミアの夢占い。アッシュルバニパル王の図書館に残る「夢の書」や、グデア王の夢を紹介します。

発祥:メソポタミア(現在のイラクなど)紀元前3千年紀〜偶然のしるしを読む解説のみ

概要

古代メソポタミア(今のイラクを中心とする地域)の人々は、夢を神々からのしるしと考えていました。夢に何が出てきたかを手がかりに、これから起こることを読み取ろうとしたのです。

夢の意味を記した手引きも、粘土板に書き残されました。とくに有名なのが、アッシリアの都ニネヴェにあったアッシュルバニパル王の図書館から見つかった「夢の書」です。文字で記録された夢占いとしては、古代エジプトの夢の書と並んで、世界でもっとも古いものの一つとされています。

由来と歴史

メソポタミアで夢が記録された最も古い例は、シュメールの都市ラガシュの「ハゲワシの碑」とされます。紀元前25世紀ごろ、王エアンナトゥムの戦いの勝利をたたえた石碑です。そこには、神ニンギルスが王の頭のそばに現れ、勝利を約束したと書かれています。

夢とその意味を並べた文書は、紀元前1700年ごろの古バビロニア時代の粘土板にすでに見られます。そして紀元前7世紀、アッシュルバニパル王の図書館に、まとまった「夢の書」が残りました。古代の人々はこれを「ジキーク(ザキーク)」と呼びました。夢の神の名前で、「霊」や「亡霊」を表す言葉とされます。

仕組み・やり方

夢の書の書き方

夢の書は、11枚の粘土板からなる文書です。2枚目から9枚目に、夢とその意味が並びます。最初と最後の粘土板には、悪い夢をはらう儀式が書かれていました。

項目はどれも「もし人が夢の中で〜したら、〜となる」という決まった形です。肝臓占いの前兆集と同じ書き方です。夢の中身は、空を飛ぶ、ものを食べる、神殿や町を訪ねる、死者に会う、冥界に下る、といった場面ごとに分けられていました。

夢と意味を結びつけるのに、語呂合わせがよく使われました。

  • カラス(アルブ)を食べる夢を見たら、収入(イルブ)がある。
  • ミフルという木を与えられる夢を見たら、ライバル(マーヒル)がいなくなる。

悪い夢が良い意味になる、反対の読み方もありました。「神が人をのろう夢を見たら、その人の祈りは聞き届けられる」という項目がその例です。

悪い夢をはらう

悪い夢を見たときは、「ナムブルビ」と呼ばれるおはらいの儀式を行いました。太陽神シャマシュに「私の見た夢を良いものに変えてください」と願う祈りが残っています。夢の内容を身代わりの人形に移し、その人形を壊すという方法もありました。

夢を求める

自分から夢を見ようとすることもありました。神のお告げを受けるために聖なる場所で眠ることを「インキュベーション(参籠)」と呼びます。シュメールの物語では、英雄ルガルバンダが夢を見るために横になると、夢の神が現れます。ただし、実際にどれほど行われたかは、研究者のあいだでも意見が分かれています。

グデアとギルガメシュの夢

紀元前2120年ごろ、ラガシュの支配者グデアは不思議な夢を見ました。夢には大きな人物が現れ、意味のよくわからない言葉を告げます。困ったグデアは船で女神ナンシェのもとを訪ね、夢を解いてもらいました。答えは「神ニンギルスの神殿を建てよ」というものでした。グデアは、いけにえの内臓を調べる占いでも、その答えを確かめています。この話を記した「グデアの円筒碑文A」は、パリのルーヴル美術館にあります。

『ギルガメシュ叙事詩』にも夢が出てきます。古バビロニア版では、英雄ギルガメシュが、空から落ちてきた重い星のかけらと、一本の斧の夢を見ます。母である女神ニンスンは、これを頼もしい仲間がやってくるしるしと読み解きました。その仲間が、のちの親友エンキドゥです。

文化の中での位置づけ

夢を解く人には、いくつかの呼び名がありました。肝臓占いも行う「バールー」や、問いかけをする人を意味する「シャーイル」などです。のちのアッシリアでは、まじない師も夢を扱いました。女性の夢解きがいたことも知られています。

ただし、学者たちのあいだで、夢占いは肝臓占いや天体の占いほど重んじられませんでした。夢は見た人の話にたよるので、確かめにくいと考えられたのです。そのため、夢の意味を別の占いで確かめることもありました。グデアの内臓占いも、その一例です。

よくある誤解・豆知識

「夢の書」という呼び名は、研究者がつけたものです。紙の本ではなく、粘土板に楔形文字で書かれていました。

メソポタミアでは、鳥の動きも神々のしるしとして読まれました。メソポタミアの鳥占いや、ローマの鳥占い、中国の鳥占いと比べると、しるしの読み方の違いが見えてきます。当たり外れより、古代の人々の不安や願いを知る手がかりとして読んでみてください。

参考文献

最終更新:2026-10-10

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