アイスランドの名づけ父や母の名から作る姓
アイスランドでは多くの人が、家の名字ではなく、父や母の名前に「息子」「娘」を付けた名を名乗ります。名字をめぐる100年以上の議論、名前の一覧を作る人名委員会、赤ちゃんの名づけの手続きと今の変化を紹介します。
アイスランド古くから〜名づけ今も続いている
概要
アイスランドでは、多くの人が、親から子へ受け継ぐ「家の名字」をもちません。かわりに、父か母の名前のあとに、男性なら「ソン(息子)」、女性なら「ドッティル(娘)」を付けた名を、名字の位置に名乗ります。父の名から作るものを父称、母の名から作るものを母称といいます。
たとえば、ヨウン(Jón)という人の子は、男の子ならヨウンソン(Jónsson)、女の子ならヨウンスドッティル(Jónsdóttir)になります。母の名を使うこともでき、マルグレート(Margrét)という人の娘は、マルグレータルドッティル(Margrétardóttir)になります。そのため、同じ家族の中でも、親と子、兄弟と姉妹で名字の部分が違うのがふつうです。
日本の事典でも、名と父称(母称)を組み合わせる国の例として、アイスランドが挙げられています。
歴史
名字をめぐる議論
父の名を名乗るならわしは、アイスランドでは古くから続いてきました。歴史家のパウトル・ビョルンソンによると、19世紀になると、名字を名乗る人が増え、それをよしとするかどうかで議論が続きました。外国との行き来が増えると、名字を求める声も大きくなりました。父称を守ろうとする人々は、それを国の大切な受け継ぎとみなし、名字を取り入れたい人々は、個人の自由を挙げました。
法律で決める
名前についての最初のまとまった法律は1913年にでき、1914年に施行されました。この法律で、国王の許しを得れば名字を名乗れるようになり、1915年から1925年までに多くの人が新しい名字を得ました。しかし1925年の法律で、新しい名字を作ることは禁じられました。
1991年の法律では、名前の一覧を作り、名前をめぐる判断をする「人名委員会(マンナナフナネフンド)」が置かれました。それまでは、牧師が決まりを守らせ、争いがあると大学が判断していました。今の法律は1996年にでき、1997年1月1日に施行されています。
子育ての風景
赤ちゃんが生まれると、親は生後6か月までに名前を付けなければなりません。名前は、国の登録局への届け出や、宗教団体での儀式のときに付けられます。決められた期限を過ぎると、登録局から催促があり、それでも届けないと過料が科されることもあります。
名前の部分は、ミドルネームと合わせて3つまでです。名前は、アイスランド語の文法に合い、「の」を表す語尾の変化ができることなどが求められます。本人が困るような名前も認められません。
親はまず、人名委員会がまとめた名前の一覧を見ます。一覧は政府のウェブサイトで公開されています。一覧にない名前を付けたいときは、手数料を払って委員会に申請します。委員会は4週間以内に判断し、認められた名前は一覧に加わります。認められないと、その名前は登録されません。委員会は3人で、アイスランド大学の人文と法律の学部、アイスランド語の委員会が推す人で作られます。
名字の部分は、父称と母称のどちらも選べ、両方を並べることもできます。親が結婚しておらず、届け出た同居もしていないときは、母称になります。父称にするには、父親であることを届け出る必要があります。
今の暮らしの中で
名前の決まりは、少しずつ変わっています。2019年の性の自己決定に関する法律で、「女の子には女性の名前を、男の子には男性の名前を付ける」という決まりがなくなりました。性別を中立として登録した人は、「ソン」「ドッティル」のかわりに「ブル(bur)」を付けるか、親の名前だけを使えるようになりました。
1991年より前から名字を登録していた家は、子孫も名字を名乗れます。ただし、今も新しい名字を作ることはできません。名前の決まりを緩める法案は、これまでに何度も議会に出されてきました。2020年には法務省が、だれでも名字を名乗れるようにする案を示しています。それでも2026年10月の時点で、人名委員会と名前の一覧の仕組みは続いています。
よくある誤解・豆知識
結婚しても、名字の部分は変わりません。 父称や母称は親の名から作るため、結婚で変わることはありません。アイスランドの人が、配偶者の家の名字を自分の名字にすることも認められていません。ミドルネームとしてなら名乗れます。
外国の名前から作ることもできます。 親の名前が外国のものでも、父称や母称を作れます。たとえば父がスヴェン(Sven)なら、子はスヴェンソン(Svensson)とも、アイスランド語に合わせたスヴェインソン(Sveinsson)とも名乗れます。
親の一方が外国籍なら、名前の決まりが緩みます。 その親の国で通る名前を1つ付けられます。ただし、アイスランドの決まりに合う名前も、少なくとも1つ付ける必要があります。
参考文献
- Stjórnarráð Íslands(アイスランド政府)「Mannanöfn」 https://www.stjornarradid.is/verkefni/personurettur/mannanofn/
- Ministry of Justice「Personal Names Act, No. 45 of 17th May 1996」(英訳) https://www.stjornarradid.is/raduneyti/utanrikisraduneytid/utanrikisradherra/stok-raeda-utanrikirradherra/2018-01-08-Personal-Names-Act-No.-45-of-17th-May-1996
- Registers Iceland(Þjóðskrá)「Namegiving」 https://www.skra.is/english/people/names/namegiving/
- Dómsmálaráðuneytið(法務省)「Frumvarp til laga um mannanöfn」2020年2月25日 案(Samráðsgátt) https://samradapi.island.is/api/Documents/ea19c57c-ef57-ea11-9b94-005056bcce7e
- Páll Björnsson「Ættarnöfn – eður ei: greining á deilum um ættarnöfn á Íslandi frá 1850 til 1925」Saga LV:II, 2017 https://saga.sogufelag.is/?p=10811
- Páll Björnsson『Ættarnöfn á Íslandi: Átök um þjóðararf og ímyndir』Sögufélag, 2021 https://sogufelag.is/?p=14054
- コトバンク「姓名」(世界大百科事典(旧版)「氏名」より) https://kotobank.jp/word/姓名
最終更新:2026-10-19
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